髙木優希個展 「ゆうれいのいないところで」

2021.07.02 – 2021.07.18

髙木優希個展 「ゆうれいのいないところで」

ARTDYNEは移転企画第一弾として、2021年7月2日から7月18日まで髙木優希個展「ゆうれいのいないところで」を開催いたします。

髙木優希は今春に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業後、現在、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程に在籍、一貫して絵画の平面性・時間性に注目し、その可能性を模索しています。

リアルなのにどこか奇妙で不自然な部屋。枕のふくらみやシーツのしわ、重ねられた本たち、コンロに置かれた鍋やフライパン。これらはスチレンボードや紙粘土で自作したミニチュアの部屋や家具をモチーフとして描かれています。紙粘土の手作業の跡まで丹念に描写され、独特の湿度を持ったその画面は、そこに誰かが直前までいた様な奇妙な感覚を観るものにもたらします。髙木はホラー映画や怪談に対する興味から、怖い物語を読んだり観たりした後に、それらを創作物だと理解しているにもかかわらず、実在しないものに対して気味の悪さや恐怖をその後もずっと感じ続けるという人間の記憶に着目し、「いたはずのもの」をキャンバスに暗示させることによって、日常の背景に横たわる不穏さや不安定な感情の呼び起こしを試みています。さらに「自作の物を描く」という作業は、模造品を描写(模造)するという重層的な意味を作品にもたらし(それは自動的にトーマス・デマンドの仕事を想起させます)、絵画を制作することの根源的な問いを私たちに投げかけます。

本展では新作を中心に、十数点を展示販売いたします。この機会にぜひご高覧・ご紹介いただければ幸いです。

※本展につきましては、新型コロナウィルス感染拡大状況によっては会期等が変更になる可能性がございます。最新情報は弊社ギャラリーウェブサイト、各SNSにて随時配信して参りますので、そちらをあわせてご確認頂けましたら幸いです。なにとぞよろしくお願いいたします。

 

※本展に関するお問い合わせは、下記連絡先までお願いいたします。

新住所:〒101-0021東京都千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 207号室
営業時間:12-19時
定休日:月火水(展覧会開催中のみ開廊、企画展によって変更有)
Tel:03-6284-4458 Email:gallery@art-dyne.com
Web:www.art-dyne.com

 

作家略歴

髙木優希

1994

福島県生まれ

2021

東京藝術大学絵画科油画専攻卒業
現在、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程在籍中

個展

2020

「あの日のすみか」MEDEL GALLERY SHU/東京

グループ展

2020

「Spring Show」ARTDYNE/東京

2019

「上書きされた風景」MEDEL GALLERY SHU/東京
「開廊記念 尾黒久美・髙木優希2人展」/ARTDYNE/東京

2018

「東京インディペンデント」/東京藝術大学陳列館/東京
「ゆがいたかいがおいしい?」/gallery i/東京

―アーティスト・ステートメント―

夢なのか現実なのかわからない記憶がある。

当時幼かった私は両親と妹と寝室が一緒で、毎日和室に並べて敷いた布団で眠りについていた。その日も多分家族みんなで布団に入ったと思う。深夜、急に目が覚めた。寝起き特有のふわふわした頭の中で周りを見渡すと、いつも一緒に寝ているはずの家族が誰もいない。豆球をつけていたはずの寝室は真っ暗で、代わりに寝室とキッチンを隔てる磨りガラス越しに電気がついているのが見えた。みんな起きているのかな、と耳を澄ますと囁き声のような、テレビの音のような小さなノイズが聞こえる。それは会話というより、独り言のような響きを持っていた。その音をぼーっと聞いているうちに、なぜか、『今、この家には私以外誰もいない』という感覚に陥った。そしてそれと同時に、電気のついた部屋には『無がいる』とも思った。

無がいる———。暗い部屋に一人残されたことは、幼い私にとってとても恐ろしいことだった。

助けを呼んでも誰も来てくれない。そのことが恐ろしかったのではない。声を出したら、向こうの部屋にいる『無』に気付かれてしまう。この家に私しかいないということが気付かれてしまう。それがどうしようもなく恐ろしかったのだ。本当は、明かりの先には父がいたのかもしれない。深夜の通販番組を見ていたのかも。あるいは、母が目を覚ましてしまった妹を眠らせるために本でも読んでいたのか・・・。だが、私は確認しに行くことができなかった。

この記憶は、きっと夢の中の出来事だったのだと思う。だが、あの日聞いた囁きは、今も微睡の中に響き続けている。

髙木優希